2010年05月31日
      モスクワ ビジネスサポーター 岩本 茂

 
現在日本の色々な投資案件が進行していますが、ロシアの消費者の中で日本製品に対する関心は更に高まりつつあるように見えます。
 
TV、映画やPR媒体で情報としてはかなりの日本の文化が浸透している為、知識としては十分にその下地が築かれていますが、先日のユニクロ1号店のオープニングの状況を見て、日本への関心の高さを改めて実感しました。
 
3月初旬に予定されていた1号店のオープンは4月2日となりました。既に日本のTVニュースでも紹介されましたが、数ヶ月前より町のあちこちに大きな看板がかかっていたこともあり、初日から大勢のお客さんが詰めかけ、入場制限で30分余りの長蛇の列ができる有様でした。実際の日本を実感したいという思いで来た人が多く、店のレイアウトや品揃えは日本とほぼ同じにアレンジされ、来訪者は買い物もさる事ながら、日本の雰囲気を堪能していたように思えました。
 
モスクワでは寿司主体のレストランや“うどん屋さんチェーン”のように和食レストランの数は数百軒となりそれなりに普及しましたが、衣料やファッションを含む日本文化全般への幅広い関心が高まっているように思われます。別途ご紹介したいと思いますが、ロシアでの囲碁ブームも予想以上です。
 
今般筆者はJETROの要請を受け、3月に札幌と新潟で開催されたロシアビジネスセミナーの講師を務めました。ロシアビジネスに関心のある多くの方々が参加され、実務に関する色々な質問を頂きました。
 ウラジオストックを中心に日本製品の極東向けのビジネスは盛んになりつつありますが、その先のモスクワ等の大消費地に向けてどう展開していくのかという点に、皆さん特に関心があるようです。極東では広く知られた商品でも、数千キロ彼方のモスクワで同じように知名度を勝ち取るには、更なる努力と工夫が必要です。6年に亘りロシアで様々な商売をトライして来た経験より見ても、このための方策は色々ありますが、別の機会にご披露したいと思います。
 
ご承知の通り、モスクワの2つの地下鉄の駅で朝の通勤時間帯に爆発テロが発生、罪もない通勤途中の多くの市民が巻き添えとなりました。この為、自家用車で通勤する人の数が増え、ラッシュアワーの交通事情は以前にも増して厳しくなっています。   
 このような状況ですが後日、賑わいが戻った地下鉄の駅の近
にあるショッピングセンターで再びユニクロさんをのぞいてみました。さすがに入場待ちの行列はありませんでした。日本の商品は品質には定評があるものの、ロシアの市民にとってはまだ高値の花なのかも知れません。
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2010年04月30日
    モスクワ ビジネスサポーター 岩本 茂 

 
今年のロシアは数十年ぶりの大雪に象徴される本格的な冬に遭遇しました。3月に入っても、まだ寒い日々が続いていますが日差しは間違いなく春のものになってきています。なんとなく町を行き交う人々の表情も明るい雰囲気が感じられます。 
 
このように春を迎えるロシアではありますが、厳しい冬が到来したこともあり例年になく交通事故も多く、大きな事故現場に遭遇したことも何度かありました。それに加え、前回レポートしましたロシア、カザフスタン、ベラルーシによる関税同盟の影響で、西欧からの消費物資、電化製品の輸入には規制がかかったままとなっており、アルコール類に至っては新たな規則が確立するまで輸入は実質的にストップ状態となっています。
 このような状況ですが、将来のロシアを見据えての日本の投資の案件は減少することなくむしろ最近は目立ってきたようです。今回はロシアに於いて進行中の日本の主な投資案件の紹介をさせていただきます。
 三菱自動車はフランスのプジョーシトロエングループと組んでカルーガ市に自動車工場の建設を進めています。モスクワから170kmほど南の近距離でもあり、大きな経済効果が期待されるとの評判です。
 更に自動車関連では数年前からIHIがモスクワでルノー向けを中心にスタンピング事業(※)を展開しておりルノーが最近、生産量を2倍の2万台に引き上げる段階となったことから、この事業にも弾みがつくのではないでしょうか。
 また既にモスクワから北350kmのヤロスラブリ市に工場設備が完成したコマツの建設機械生産工場が、間もなくフォークリフトと小型エクスカベーターの生産を始めます。極東でも日本の会社はいろいろな案件を計画しているようです。
 一方食品関連分野ですが先月モスクワで第1回日露農業フォーラムが開催されました。このフォーラムはロシア側のイニシャチブで開催されたもので、その意図は、大量の余剰小麦(なんと9000万トンも余剰がでたとのことです)を日本、アジアに輸出したいとの意向ですが(ロシアの小麦は日本で使われているものとは異なる品種でもあり、その実現には多少無理があると思われるのですが)今回はこの小麦関連のテーマに加え、日本の食品に関するいろいろなテーマが披露されました。
 日本食ブームを反映して、日本から魚介類の輸入を増やしたいとの話もあり、今後日本からの日本食材のロシア向け輸出は本格的に拡大することが予想されます。
 更にこのフォーラムでは吉野家の代表の方が、近々モスクワに店舗を持つことを具体的に検討していると発表しておられました。以前も少しご紹介致しましたがユニクロの1号店のオープンが間近となってきたようです。町のあちこちに大きな広告が目立ちます。
 すでにモスクワで人気の讃岐うどんのチェーン店“うどん屋さん”もいよいよサンクト他の地方都市に展開します。
 このように広い分野で日本の本格プロジェクトが相次いでスタートすることもあり、本格的な日本ブームがようやく始まるのではないでしょうか。
(※)「スタンピング事業」モスクワの古いトラック工場にある大型プレスを使用し、ルノー他向けにボデー部品をプレス板金加工して供給するという事業です。

 
2010年04月07日
     モスクワ ビジネスサポーター 岩本 茂

 
依然として厳しい経済状況にあるロシアですが、ようやく景気回復につながる動きが出てきたようです。特に中小企業の振興策に関する優遇措置や廃車促進国産新車買換え促進プログラム等の方策をロシア政府が打ち出してきたこともあり、前向きな雰囲気は高まりつつあると言えます。ところが本年初めからスタートした新たな関税の仕組みの為、特に輸入品に対する新たな規制、認証取得の詳細が不透明なこともあり、家電や電子機器等を始めとする商品の輸入手続きはスムーズに行われていないというのが現状です。
 
もともとはロシアが数年前にカザフスタン、ベラルーシ、ウクライナ他の旧同盟諸国と統一経済空間を創ろうと作業を始め、途中ウクライナが抜けたものの、昨年11月27日にベラルーシに於いて3国首脳により“統一関税率”適用の合意が成立した結果、本年1月1日より“関税同盟”がスタートしてしまったというわけです。
 
これにより第3国の貨物に対しても統一税率が適用されることとなりましたが、それぞれの国の事情もあり、当分は移行期としての例外や暫定税率の適用が続く予定です。このような経過の中でロシアでは必ずしも今まで明確に規定していなかった規制を新たに適用するという副産物も現れ、輸出入に於いての制度が混乱状態に陥っているという次第です。
 
たとえば多くの家庭電化製品、電子機器に採用されている、“暗号信号”は国家の保安上、規制の対象となり、またオゾン等を破壊する恐れのある冷媒を仕様した冷蔵庫、冷凍庫も輸入禁止の対象となっています。
 
ロシアからの輸出に関しても木材、再生紙等資源流出につながるものは禁止となりました。将来統一経済空間を作る3国の経済国境の撤廃はその準備の期間、それぞれの国に於いて従来の輸出入の規則の見直しという点が注視され、議論されており当分この混乱状況は続くと思われます。
 先月筆者はロシアからベラルーシに出張する機会がありましたが、モスクワからベラルーシに移動する際、国境の査証チェックがなく、現地のホテルでロシアのVISAのチェックを受けるという、まさに経済国境がないという状況を経験してしまいました。ベラルーシやカザフスタンにとってロシアは大きな貿易パートナーであり、関税同盟でこれらの国々がロシアに輸出し易くなったことは彼らにとっては大きなメリットであり、それぞれの経済の活性につながると思われますが、それ以外の域外の欧州、日本等の国々にとってはいままで無かった新たな規制に悩まされるという状況が当分続きそうです。
 輸出入の規制の対象になっているものの中には、知的財産保護の面でCDやDVD、印刷物も含まれており、今後ロシア貿易を行う際にはこれらの新たな仕組み、制度をよく勉強し対策をとる必要があるようです。

 
2010年03月06日
        モスクワ ビジネスサポーター 岩本 茂

ロシアでは、「新年、明けましておめでとうございます」という言葉を、特にここ数年、年に2回聞かされる状況にあります。どういう意味かというと、やや細かい説明をせねばなりません。

    ロシアはもともとギリシャ正教国であるためユリウス暦が使われていましたが、1918年以降はグレゴリオ暦(新暦)となり、今日に至っています。ユリウス暦との調整で13日のずれがあったことから、古くは1月13日から14日にかけてが新年であったとの思いが残っており、形式的ですが、今でも2回目の正月の挨拶を交わす人々が少なくありません。
   ソ連の時代には生産性の向上のため1週を5日とした期間もあったようですが、1967年以降の暦は今のように新暦でかつ土曜、日曜が休日の週休2日制が全国一律に採用されています。
    一方驚くことに2005年からロシアは突然1月1日から1月10日を休日にすると宣言、それは制度化され、今日に至っています。その理由としては、旧暦では1月7日がクリスマスであること、年末から正月の初めにかけて欧州等に休暇を取って海外旅行に行く人たちが増え、多くの企業で1月の第1週は仕事にならない状態となっているといことがあげられています。それなら国として、いっそ10日までを休日にしてしまおうと考え、2005年正月からそれが制度化されてしまったという次第です。
    我々外国の人間にとってこれに強く反対する理由はあまりないのですが、最近当地のラジオ番組等を通じ明らかになったのは、“1月10日までを休日にするのは行き過ぎである”という意見が多く出始めているということです。
   その理由は1)1月10日までの休日制度は、海外に旅行に行ける人々にだけメリットがあること(現状では国民の5%にも満たない) 2)もともと1月はある程度、生産性が落ちることは避けられなかったが、この制度で更にそれに拍車がかかり、リカバーするにはその後数カ月を要すること 3)ソ連時代5月の初めに4日程あった連休が現在では2日程に減ってしまっているので、正月に長い休暇を取るよりもこの5月の初めの休日を増やすべきであるとの意見があること、等々です。
     バブル経済のピーク時に制定された、この永い正月の休日制度は、600万人の失業者を抱え、大不況の真っただ中にあるロシアの経済状況では確かにそぐわないように見えます。ここは国民一致団結し、ふんどしを締めなおして、冬眠から目覚めるべき時期に来ているのではないでしょうか。

 
2010年02月20日
      モスクワ ビジネスサポーター 岩本 茂

 12月始めのモスクワは100年ぶりの暖冬ということで、昼間はプラス10度前後の気温が続いていました。昨年も12月は殆ど雪が積もらず1月まで暖冬だったこともあり、果たして今シーズンも暖冬が続くのかと思いきや、今年は違っているようです。
 12月8日過ぎ当たりからぐんぐん気温が下がり始め、11日はマイナス8度となり、15日はとうとうマイナス20度を下回りました。
 この当たりになるとロシアの人は“病原菌が死に絶えて風邪を引かない”とむしろ寒波を歓迎しているように見えます。“やはりロシアはこうでなくては”と多くの人が言うように冬のモスクワは寒いのが似合っているようです。
 ロシアの暦ではクリスマスは1月7日ですが、すでに町のあちこちにサンタクロース、クリスマスツリーの大きな飾り付けがなされ、華やかな雰囲気に包まれています。ロシアの冬は暗いイメージかというとそうではなく、街の飾りつけに加え、芸術、文化も一斉に花開くと言っても過言ではありません。
 夏の間は海外や地方に公演旅行に行っていたオーケストラやバレーの面々は冬になるとモスクワやサンクトペテルブルグに戻り、連日華やかな舞台が繰り広げられます。ご承知のように、ロシアの芸術のレベルは極めて高く、社会体制の変化にも殆ど影響されずに永年に亘り、技術、伝統を保ってきました。楽団員の給料は決して高くはないものの、楽器や練習場所、公演の機会もある程度保証され、経済的レベルのはるかに高い日本と較べると、果たしてどちらが豊かであるのか、大いに疑問です。筆者はたまたま永年音楽をやっている関係で当地では、ロシアの音楽のプロの特訓を受ける機会があるのですが、妥協を許さない姿勢にはいつも圧倒されています。ロシアの冬はエンジョイしなければやってられないとばかりに演奏する方も、聴く方も冬の音楽、芸術に対しては皆さん貪欲であると言えます。  
 一方最近日本では予算の見直しという“仕分け”とやらで、芸術、文化のいろいろな補助の予算が削られつつあるようで、ただでさえ給料の安い音楽関係者はとても困ることになるのではと危惧します。それにも増して、芸術、文化を子供たちに体験させられる予算まで無くしてしまおうというのですから耳を疑わざるを得ません。
(舞台芸術体験事業の廃止等)
 経済状況が依然厳しいロシアではありますが、文化、芸術は決して日本ほど貧しくはないようです

 

 
2010年01月20日
            モスクワ ビジネスサポーター  岩本 茂

   ロシアの経済事情は引き続き厳しい状況です。何度かお伝えしておりますが、ロシア最大の自動車製造会社、AVTOVAZ社の売り上げはピーク時の43%前後であり、更なるリストラも計画されております。
    このような状況下、プーチン首相は既にAVTOVAZの25%の株式を保有しているルノーグループに対し、必要資金700億ルーブル〔約2100億円〕のうち175億ルーブル〔約525億円〕の融資を要求しており、今後の成り行きが注目されています。
    また10月6-8日の期間モスクワの見本市会場でナノテクフォーラムが開催されました。半年前より事前PRがなされ、国を挙げてのプロジェクトの様相でありますが、最終日会場を訪問した限りでは盛り上がりにはほど遠いものでした。どの国に於いてもこの分野の具体的なビジネスチャンスはまだまだ限られていますが、誰かがナノテクがロシアを救うキーワードであるとこの国の指導者に進言したようで、ナノテク委員会はふさわしい投資案件があれば対応すると宣言しています。太陽光発電用のパネル生産等の計画もあるようですが、パネルのコストが高く、実際に動きだすにはまだ時間がかかるようです。
    このような中にあって、町のあちこちで目を引くのは携帯電話のショップが賑わっていることです。既に殆どのロシアの人が携帯電話を持っているようですが、新しい機種に対する関心も高く、町のあちこちの携帯ショップは日本と同様賑わっています。
    現在ロシアの携帯電話の普及台数は既に1億台を突破したと言われています。2006年の統計では8700万台であったとのことですが、毎年の販売台数は2008年末までは伸び続け、2009年の1月から9月までの売り上げは2600万台に達しています。それでも前年より31%のダウンとのことです。
    モスクワでの売り上げは来年にかけて650万台とやや鈍化するようですが、地方での売り上げは厳しい経済情勢にもかかわらず今後も微増することが予想されており、地方の携帯電話の普及が今後進むようです。2台以上携帯電話を所有する人が30%以上いるというロシアの事情もありますが、若者を中心に携帯電話の新しい機種の普及は着実に伸びています。
  “物作りを殆ど放棄してしまったと思えるロシアなので、ロシア製の携帯電話は殆どゼロという状況ですが、せめてこの分野で自国産の機器の製造にチャレンジする企業が現れるのを期待したいものです。

 
2010年01月19日
     モスクワ ビジネスサポーター  岩本 茂

今年のロシアの秋は好天が続いています。8月の上旬は肌寒い気候が続き今年の冬は厳しいのではないかと思った程ですが、8月中旬以降は好天で、極めて快適な気候が続いています。

 週末、郊外の別荘に向かう車の列も混雑し、残り少ない秋を楽しむ風景が見られます。しかし郊外の白樺林は既にすっかり色づき、落ち葉も本格的です。暖かい秋が続いていますが、あと少しで最初の冬の到来を迎えることとなりそうです。
 昔からの伝統でもありますが、郊外の別荘で週末を過ごす人々はこの不況のなか例年にも増して家庭菜園での野菜の栽培にも精を出しています。昔と大きく異なるのはマーケットで売られている野菜の種類が増え、日本食を家庭で作るには充分ではないかと思われる程、いろいろな野菜が目につきます。
 昔は野菜といえばキャベツ、人参、玉葱、ジャガイモ、胡瓜といった定番が殆どでしたが、最近では、それらに加えて、大根、白菜、なすび、長ネギ、各種トマト、各種ピーマン、それに生姜まで売られ、様変わりです。(価格は日本と較べ高いもの安いものいろいろありますが、例えばスーパーで売られるものでは胡瓜1キロ75円、キャベツ1キロ60円、トマト1キロ100円―180円、牛肉ひき肉 1キロ700円といった具合です。あまり新鮮とは言えませんが屋台のような売店では、更に2割ほど安いところもあり、小まめに探せば食費は結構押さえられるとも言えます。)
 このように食生活の中身が変わりつつあるロシアは全般的景気はかなり深刻な状況ではありますが、少々価格は高くてもスーパーの日本食等の輸入材料のコーナーも人気があり、種類も増えつつあります。
 現在モスクワで開催されているワールドフード食品見本市では、東南アジア、中国、韓国の小間には海苔や、佃煮等様々な食品材料が紹介され、人気を呼んでいます。
 もうひとつ最近目につくのは、スポーツや健康関係のグッズを展示する見本市の増加です。子供向けのフィットネスグッズや熟年向けのアイテムなど、以前は殆ど見られなかった健康志向の風潮があちこちで見られるようになりました。これはモスクワだけではなく、地方都市でも同じ傾向が見られ日本の食材等に関する地方からの問い合わせなど地方からのものが増えつつあります。地方の食文化も変わろうとしています。
 代表的な産業である自動車産業ではトップメーカーであるAVTOVAZがいよいよ5、000人の人員削減を行い、その後3万人の削減も視野に入れているとの報道です。相変わらず石油輸出依存度の高いロシアはGDPも今年は昨年比10%の落ち込みという厳しい状況が続いていますが、逞しいロシアの人々は短い黄金の秋を満喫しているようです。


 
2010年01月19日
    モスクワ ビジネスサポーター 岩本 茂

 ビジネスを進める上でロシアは国土が広すぎると近頃改めて実感しています。日本の企業が商談の都度ロシアを訪問することは日本とモスクワの往復、更にはモスクワから地方への移動打ち合わせ等で結局約一週間近くの時間を費やすことになり、よほどの商談でないと間尺にあいません。(昔のソ連時代はこれに加えて、商談と商談の間隔が長く、ひたすら待たされるという要素が付け加わっていましたが)
 このような地理的な要因もある為、ロシアを商売の重点地と考える日本企業は商売の機動性を保つ為、駐在員をロシアに置くこととなるのですが、その場合どうしても大都会であるモスクワに拠点を置かざるを得ません。
 ロシアの地図を見ればお分かりのように、モスクワは広大なロシアのほとんど西の端に位置しており、東に果てしなく広がる大地に点在するビジネス拠点をきめ細かく攻めることは大変な重労働であり大きな足かせになっていることが実感されます。
 1600万人の人口を抱えるモスクワ周辺だけを商売のターゲットとするのであればいいのですが、モスクワ近郊の客先訪問でも丸一日を費やすことも多々あり、更に殆どの中都市が1000km近く離れている現状では、頻繁に行き来するのは容易ではありません。
 モスクワに拠点を置く日本の企業の数は10年程前までは大きな増減はなく数十社でしたが大手自動車メーカーの進出決定後はBRICsブームも追い風になり急激に増え、あっという間に百数十社にまでなりました。しかし深刻な経済危機が続いている現状からここに来て撤退される企業も目立つようになってきたようです。撤退される企業、進出される企業の入れ替わりもありここ1年は微増の状況が続いています。
当地の商工会であるジャパンクラブに登録の企業数は現在187社となっています。
 最近はユニクロが加入されたことは大きな話題となりました。新たに邦人を投入した形で進出される企業のなかには現地の相手先または自社のローカル駐在員に任せておいては商売が伸び悩むとの判断で、所謂“てこ入れ”をするために来られるケースもあるように見受けられます。
 
7月に改正されたロシア有限会社法は全有限会社に対し定款の見直しと本年中の再登録を要求しており、弊社も最近再登録を行ったところです。今後その他の法律の改正も予定されており、益々法律の理解が必要で、現地人任せには出来ない状況となってきたようです。
 自動車大手のAVTOVAZ社の状況は先月号でも報告させていただきましたが、最近従業員のデモがあり、“経営陣を更迭し、労働組合の代表に経営を任せろ”というスローガンも掲げられたようです。このように経済危機、混乱が続くロシアでは、企業の投資の意欲はまだまだ乏しいのですが、一方過去にいろいろな困難を乗り越えた経験をもつ日本の企業との対話を求める声は多く、今はこれらの相手との関係を築くチャンスともいえるのではないでしょうか。

 
2010年01月19日
           モスクワ ビジネスサポーター  岩本 茂

   ロシアは数年前から空前の自動車ブームで、特に日本車の人気が突出していることは何度かレポートさせていただいていた通りです。しかしながらいくつかの大きな自動車工場を抱えるロシアとしてはこのような傾向に歯止めをかけ、国産乗用車の増産を図るべく、右ハンドルの中古車の輸入禁止、輸入車に対する関税の強化等々、いろいろな対策を講じてきました。
   それにも関わらずいったん海外の乗用車の快適さを知ってしまった当国の人たちには焼け石に水のような感もあり、国産車の売れ行きに目立った増加はありません。当事者であるAVTOVAZ,GAZ等の大手自動車メーカーは財政的な負担に耐えかね、このままでは倒産の危機に直面してきているようです。
    自動車産業の崩壊は、関係会社を含めた大量の失業者を生むことにもなり、関係官庁も対策を考えているものの出口は見えてこないようです。最近の現状及び政府による対策等をまとめてみました。
(1)   AVTOVAZへの支援の現状 
    政府は3月に行われたプーチン首相を交えた現地での打ち合わせの結果、最大の自動車会社である“AVTOVAZ”に対し250億ルーブル(約730億円)の無利子融資の実行を決定しました。AVTOVAZ側は更に300億ルーブル(約900億円)の追加融資を求めているようです。
    500億ルーブルもの負債を抱えるAVTOVAZ社として、この要求は無理もないのですが、既に生産におけるコストが上がってしまい、販売価格自体も外国の小型車と同じかむしろ高くなってしまった現状から、このまま更に融資を追加しても、具体的な解決にはならないという意見が大勢を占めつつあり、むしろ更正法適用か、分社化の方向で整理し出直した方が良いのではとの意見も出てきているようです。(2)   GAZに対する支援
    GAZ社はゴーリキー自動車工場という老舗でVOLGAという車種を製造していますが400億ルーブル(約1200億円)の負債を抱えているため、200億ルーブルの保障及び償還期間の延長等のサポートが政府、及び銀行団より出されることとなったようです。(メインのアルファバンクは資産の整理を要求しているようですが)筆者は数年前GAZのオーナーの依頼を受け、工場を訪問したことがありますが、運転資金にすら事欠く現状からオーナーへの不満は相当のものがありました。
    このような状況ではありますが、政府が更なる梃入れをした以上、自動車産業の再建、国産自動車の販売増加につながる追加の施策は功を奏するかも知れず、国内での自動車の製造、販売が前向きに進む可能性も出てくるかもしれません。

 
2010年01月15日
モスクワ ビジネスサポーター 岩本 茂

  今月は広島と姉妹都市関係にありますウラルのオレンブルグ市との取り組みにつき、ご紹介させていただきます。オレンブルグ市はモスクワより東南約2000kmにあるオレンブルグ州の州都で、約60万の人口を有しています。
   この地域はなんと言っても石油・ガスの大生産地の中心であり大手石油会社の拠点もあります。その他農業、畜産等に加え、伝統的に絹織物等の繊維製品生産等の民生工業が盛んです。豊かな自然に囲まれ、人々はゆったり生活しているように見受けられました。教育水準も高く、市の中心にある国立オレンブルグ大学は各地から集まった3万人程の学生が学んでいます。
   広島市とは姉妹都市の関係にある為、オレンブルグ大学と広島大学の交流も盛んですが、今年は当地で初めて広島、長崎の平和委員会の協賛による原爆展示会も開かれました。また、日本の映画際も開かれ日本に対する関心が一気に高まっています。連日多くの来訪者があり、日本から来られた被爆者代表の植田さんが大学で講演をされ多くの若者からの質問にも答えておられました。
   また、オレンブルグ大学の中には日本情報センターがあり、ニージヌイノブゴロド市にある日本センターとは数年前から交流をされています。今回10月16日に日本センターのアレンジでオレンブルグ大学の日本情報センターでビジネスセミナーが開かれ弊社も講師としてこれに招かれました。
    州政府、商工会議所、大学も日本との経済交流には大変期待されています。オレンブルグは地方      都市ではありますが、多くの中小企業の方々が日本のビジネスのやり方を学びたいとセミナーには大勢参加され〔数十社約200名〕熱心に質疑応答に参加されておられました。最近の日本食ブームもあり、日本食レストランを開いたので調理技術の詳細を知りたいというオーナーや古いフレンチレストランで和食コーナーを設けたいという話等もあり、日本が得意とする金属切削技術、周辺部品の説明にも熱心に耳を傾けておられる中小企業関係者もおられました。食材関係、厨房設備関係等一般生活産業関連分野に対する関心も高くロシアではこれから地方都市の生活レベル向上に伴い様々なビジネスチャンスが増えることが期待できそうです。
   今回、ひろしま産業振興機構国際ビジネス支援センター(HAPEE)には広島県の紹介のビデオをお借りし、上映させていただきました。広島県の産業の裾野の広さの紹介もインパクトがありましたが、広島観光案内ビデオで案内の女性が焼き牡蠣やお好み焼きをおいしそうに召し上がっておられたのには会場から大きなため息が出たことをご報告いたします。