モスクワ ビジネスサポーター 岩本 茂
昨年5月号で、現在も国際宇宙ステーションに滞在中の若田光一宇宙飛行士の講演内容をレポートさせていただきました。 この6月13日に、野口聡一宇宙飛行士の講演会が再び当地日本大使館でありました。野口宇宙飛行士は本年後半から6ヶ月の長期間、国際宇宙ステーションに第20次の隊員として滞在される予定ですが、日本の宇宙飛行士として初めてロシアのシャトル”ソユーズ宇宙船“に搭乗されるとのことです。 今回はモスクワ駐在の日本の多くの方々、特に小学生、中学生が日本人学校の先生と一緒に大勢参加しておられ、前回と較べはるかに、国際宇宙ステーションへの関心度が上がっていることを実感した次第です。 今回は野口宇宙飛行士が特に質疑応答の時間を設けられたこともあり、いろいろ面白い質問が飛び交いました。(お風呂の事、時差のこと、また宇宙に行くと身長が伸びるというのは本当かとか、)それらの質問に野口宇宙飛行士は丁寧に答えておられたのが、印象的でした。 今年はロシアの大統領と麻生首相との会談がサハリンで行われたり、先日はプーチン首相が日本を訪問されたりと首脳の行き来が頻繁に行われていますが、われわれ当地で仕事をしている人間から見た場合、ロシアの景気特に工業生産の分野での進展はほとんど見られません。当地の不況の深刻さも極めて大きいものがあります。 このような状況のなか、宇宙空間という夢のような世界を対象に小さな子供が熱心に質面をぶつけている姿はすがすがしく、短い時間でしたが、たくさんの元気をもらったような気がしました。ロシアのビジネスにも日本の若い人が関心を持つような時代が早く来ることを願わずにはいられません。 今のロシアで日本人がビジネスで成功するには大変な苦労とリスクが伴うことは明らかで、大小の落とし穴が至る所にあるような気がします。このような現実を知れば知るほど多くの日本人はこちらでのビジネスへの挑戦に尻込みをすることとなるのではないかと思われます。ビジネスでの日露協力関係の良い例が現れることを期待します。
モスクワ ビジネスサポーター 岩本 茂
ロシアの景気は他国と同様極めて厳しいものがありますが、過去数十年何度も厳しい局面に遭遇して来たロシアの人々は表面的には平静を装っているように見えます。本年はじめからのルーブル安の状況は依然として変わりがなく、輸入製品の物価は相変わらず高いため、人々の暮らしも相当厳しいはずです。例年なら今頃は週末郊外に向かう車の列で凄まじい渋滞を呈するのですが、最近はこの渋滞がそれほどひどくないのです。ガソリン代等の出費は出来るだけ節約しようという傾向があるのではと思われます。また、たまに利用するタクシー(こちらではほとんどが白タクですが)と料金の交渉をする際、10分あまりの距離であれば100ルーブル(約300円)が相場なのですが、最近タクシーの運転手は一様に150ルーブルと吹っかけてきます。結局は相場の100ルーブルで落ち着くこととなるのですが、短期間で効率のよい稼ぎをしようとするこのような人々の数が急に増えたようにも思えます。 今月は8年ぶりにプーチン首相が多くのロシアの経済人を伴って、日本を訪問したことが話題となりました。低迷するロシアの産業を底上げする為、日本からの投資、技術導入の促進を図る目的でもあるようですが、こちらの産業基盤は受け入れの態勢がまだまだ整っていないように見受けられます。政府はインフラ整備の増強、物づくりの底上げ等に力を入れつつあるのですが、長年放置されてきた物づくりの現場の設備等の整備にはまだ大分時間がかかるものと思われます。 ここ数年自動車をはじめ海外からの高級品がいくらでも購入できた状況は昨今一変し、国産品の生産にシフトしようとしているのですが、既に慣れ親しんだ海外製品の品質と同じものを国産品に求めても、やるべき産業基盤整備は極めて広大で一朝一夕には出来ないのではないでしょうか?右ハンドル車の輸入禁止措置等、最近は思い切った政策も打ち出されつつありますが、このような優遇策をロシアの自動車産業はテークチャンスとして捕えることが出来るかどうかが問われています。 右ハンドル車の輸入の拠点である極東、沿海州地方は今後厳しい状況になることが予想されますが、この地方も今後は日本、アジアよりの食料品、日用雑貨の物流拠点としてその役割を大きくシフトせざるを得ないのではと思われます。既にロシアの人々には日本食、日本製日用雑貨は馴染みのものとなりつつありますが、最近は家庭で日本食を作るための食材のコーナーを設けるスーパーも増えており、更にメニュー、アイテムが広がるのは時間の問題でしょう。ここにはまだまだビジネスチャンスがあると予想されます。
モスクワ ビジネスサポーター 岩本 茂
今回取り上げます極東地域は日本から地理的には近いのですが、二つの側面があると思われます。先ずは輸出入の輸送、物流の要衝であるという側面、もう一つは身近なマーケットとしての側面です。 輸送、物流の側面では、木材等の昔からの日本の代表的な輸入品の集積、船積み基地、水産品の供給の要衝ですが、日本からロシアへのメインの輸出品の殆どは自動車、機械等の工業製品であり、コンテナーでの輸送が殆どの為、ナホトカでの積み替え費用を含めシベリア鉄道経由の運賃はまだまだ割高であり、あまり利用されていません。 能率が上がりコストが抑えられれば、欧州経由の半分の日数で届けられる極東経由シベリアルートが繁盛する日も近いかもしれません。 マーケットとしての側面ですが、メインのハバロフスク州、沿海州をはじめカムチャッカ州、サハリン州、それにサハ共和国、アムール州と東シベリアという広大な地域を有している極東地域ですが、人口はこれらの地域全部併せても800万人に満たないこと、人口減少の傾向も否めず、マーケット規模は限られたものであります。 このような状況ではありますが、メインの大都市であるウラジオストック市、ハバロフスク市では日本の商品が既に長年慣れ親しまれていることもあり、日本の売れ筋商品である食品、雑貨等をきめ細かく売り込んでいけばまだまだ売り上げが伸びる可能性は大きいのではないでしょうか。日本の情報もTVやラジオはアンテナを工夫すれば入手できますから、日本の商品情報は常に行き渡っています。 その中で日本の中古自動車の売れ行きは御承知の通りで、ウラルの東あたりまでは乗用車の半分以上が日本の右ハンドルの中古車で、その耐久性の良さから、一番の売れ筋商品です。これに関係する、補修用のパーツのビジネスも大きなウエイトがあるといえます。 しかし最近はロシア政府としては、自国製の乗用車の売れ行きに大きな影響があるとして右ハンドル車の走行を違法とする法律を実施しようとしています。これに反対するデモは最近のニュースでもご覧になったのではないでしょうか? 今後期待できるビジネス分野としては人々の往来の増加による観光ビジネスであると思います。カムチャッカには温泉も多数あり、夏にはチャーター便が飛びますが、冬は閉ざされていてまだまだ一部にしか知られていないように思われます。ウラジオストックには最近近代的なスキー場もオープンし、観光客の受け入れも準備されつつあります。人々の往来が増えていけば、それに伴い新たなビジネスも増えると思われます。筆者は現在極東のある州よりゴルフ場建設の相談を受けておりますが、次の機会に具体的にその計画を御紹介できることを期待しております。
モスクワ ビジネスサポーター 岩本 茂
日本も含め金融危機の憂鬱なニュースの多い毎日で、ロシアも大きく影響を受けていますが、少し気分を変えて、ロシアのゴルフ事情のレポートをしたいと思います。 ロシアはスポーツが極めて盛んな国で、テニスなどは今や世界のトップクラスを独占していますが、ゴルフはまだまだマイナーなスポーツです。というよりロシアにゴルフ場があることを知らない方も多いのではないかと思いますが、ロシアには毎年PGAの競技(ロシアンオープン)が開催されるゴルフ場があります。それはモスクワカントリークラブ(MCC)で1994年にロシア初の18ホールの本格コースとしてオープンしました。外務省の外郭団体がオーナーという点がユニークですが、筆者は1984年にロシア最初のゴルフ場を自費(機器を日本から調達し)で作ったこと等から、ロシア外務省の元幹部の推挙を受け7年間理事を務めています。会員権の整備等の問題を主に担当してきました。 モスクワ近郊のアクティブなゴルフ場は3か所ほどありますが、MCCはアメリカのROBERT TRENT Jrが6年の歳月をかけて作り、その後PGA開催のために戦略性を高めたことでGOLF DIGEST社のランクで現在世界第28位の総合評価を得ています。 森と池、川がいたるところにあり、OBは一つもない代わり、大変タフなコースです。メンバー約500人と少なくない会員数もさることながら、人種もロシア、アメリカ、韓国、日本、欧州と様々なので、ルール、マナー等の問題の徹底等、コミュニケーションの難しさは想像を超えたものがあります。 しかしながら毎月行われるスポンサー主催の大会、競技等の参加を通じて、いろいろな人たちと知り合いになることも出来ます。ロシア人もビジネスマンはもとより、新聞社の社主、宗教家等メンバーの個性は実に多様で、彼らとの交流を通じて垣間見る、ロシアのいろいろな顔や歴史は極めて興味深く、長年ロシアを見て来た筈ですが、それでも飽きることがありません。 残念ながらオープン競技、ボランティア活動等で日本人の姿をみることは稀なのですが、せっかくのチャンスなのに、もったいないなーといつも思ってしまいます。
モスクワ ビジネスサポーター 岩本 茂
最近仕事の関係で大型ショッピングモールに出かけるケースが多くなったこともあり、今回はこの現状につき、ご報告いたします。ロシア、特にモスクワにおける車の大渋滞はすでに何度かレポートした通りですが、このような状況もあり、最近の郊外型の大型ショッピングモールは急速にその多機能性を整えつつあるといえます。 ソ連崩壊後、しばらくしてスウェーデンの家具メーカーIKEA社が空港の近くの幹線道路沿いに大型家具センターを建設しました。広い駐車場に加え、それぞれのコーナーでは必要な小物がすべて展示してあること、たとえばベッドコーナーでは布団、寝具その他が一緒に展示され、台所家具コーナーでは各種食器も見られる等のレイアウトとなっている等で、特定の買い物を決めていなくとも、見て、選べるというコンセプトで、休日等には家族連れで賑わうようになりました。 このような買い物客をターゲットに隣接の場所に大型ショッピングモールがその後次々と建設され、現在では、食品、日用品等すべてのものがここに来れば買えるということとなった次第です。このようなモールは郊外の交通の要所に次々と建設されつつあります。 最近では各種日本酒(なぜか梅酒が一番の売れ筋です)を置いてある店や、モールの中の広場によくある軽食コーナーの中には現在チェーン展開している“うどんやさん”(日本の会社の指導で展開)のような和食のファーストフードの店が次々とオープンしています。 ロシアはソ連の時代から、店舗は単一の品物しか売っていない仕組みであったこともあり、(店の名前も“時計”とか“靴”とかそのものズバリの品物の固有名詞が店の名前で、日本から来た我々は社会主義の一面を非常に分かりやすく見せられたものです。)長年買い物に膨大な時間を使っていた人々には大変新鮮なものと映っていると思われます。 最近では、都心でも複数の映画館とショッピングモールが併設されたものも出現し、あちこちに多機能型センターが増えつつあります。 このように便利にはなったものの、インフレ率が12%で世界一物価高のロシアはいくら収入があっても、足りるという状況はますます遠くなるような気もいたします。
モスクワ ビジネスサポーター 岩本 茂
最近のロシアはバブルではないかと思われる状況にあります。 ご承知の通り、モスクワは世界一の物価高の町(注)です(ちなみに日本・東京はNo.4)。特にホテルの料金は恐ろしく高く、一番安いホテルでさえ1泊4,000ルーブル(17,000円程度)もしますし、ホリデー インやノヴォテルで7,500ルーブル(30,000円程度)、高級ホテルのケンピンスキーは9,000〜12,000ルーブル(40,000円〜50,000円程度)もします。町の中心には古いホテルを解体して新しいホテルが建ちましたがリッツカールトンやフォーシーズンといった超高級ホテルばかりで料金も更に高額でいったいどんな人が泊まるのか、それで採算が合うのか、まったく理解ができません。 分譲マンションやオフィスビルも雨後のたけのこのように建設されつつありますが、これも高額な家賃を目論んでいることもあり、一部の投資家は買い上げていますが、実際にどれくらいの人 が入っているのかはよく分からないところがあります。空家も目立ちます。これらの事情により一般のロシア国民(特にモスクワの市民)は安い給料ではとても生活が成り立たないということにもなり、最近の給与水準は急激に上昇しております。 これらの現状よりモスクワ等の大都市はいわゆるバブルであると思われます。バブルはいつかははじけると思われますがそれが遠い将来か、近い未来かは何とも言えません。世界の石油の価格は現在1バレル130ドルとかの水準ですが、石油大国のロシアでもガソリン1リットルは既に100円近くとなっていますし、ロシア人の間では年末には200ドルになるとの自虐的な話が飛び交っています。ロシアは石油価格が下がり始めると貿易バランスは直ちにマイナスに転ずるともいわれています。国内での物づくりが一向に進まず贅沢品を含む輸入拡大傾向に歯止めがかからないともいえると思われます。 ご承知の通り、最近プーチン氏は首相に就任いたしました。正式には5月15日に議会での承認がなされたとの報道のあと、自身マスコミを通じてこれからの内閣、特に各大臣はスピード感を持って仕事をしなければならないと、激を飛ばしました。現在のバブルの状況にある程度の危機感を抱き、より強い国家を目指すために、プーチン新首相は国家の舵取り人として精力的に活動を始めたようです。
モスクワ ビジネスサポーター 岩本 茂 最近のモスクワは地球温暖化の影響か今年の冬も比較的暖かい毎日が続き、マイナス5度からプラス2−3度という気候でした。積雪も多くはなく、今冬は北海道等の方がよほど厳しかったのではないでしょうか。 日本とロシアは近くて遠い国というイメージがあり、ロシアの素顔がなかなか伝わらない感じがありますが、その中にあって、ロシアと日本の関係が意外なところで密接に結びついている例を今回はご紹介したいと思います。 それは日本が国際宇宙ステーションで”きぼう“という実験棟を建設するプロジェクトです。ご承知の通り本年3月より3回に分けて実験施設を国際宇宙ステーションに運び建設が行われるというもので、船内保管室という最初の施設はアメリカのスペースシャトルを使って3月に打ち上げられ土井隆雄さんが見事に役割を果たされたことは記憶に新しいところです。 これらの施設の主なものはアメリカのスペースシャトルを使って打ち上げられますが、宇宙ステーションが完成する2010年にはアメリカはこの計画から撤退し、月や火星のプロジェクトに専念することとなっているとのことです。従って後半はロシアの協力が不可欠となり、宇宙ステーションで長期滞在をされる若田光一さんや野口聡一さん等日本のJAXA(注)の宇宙飛行士の皆さんはモスクワ郊外で訓練を行っておられるとのことです。 最初の打ち上げの直前の2月初めモスクワの日本大使館で、若田光一さんの講演会があり、これらのお話を伺う機会がありました。〔写真を御参照ください〕。 以前にもTBSのアナウンサーがロシアのロケットで宇宙に飛び立ったことがありますが、今後はロシアとの共同作業が不可欠になるとのことです。 私が仕事の中心としています、製造設備関係については、ようやく日本の特徴を正しく理解される兆しが見えてきたという段階ですが、意外な面で日本とロシアが密接な関係となって取り組みが行われているということを知った次第です。 *JAXA:Japan Aerospace Exploration Agency
講演中の若田光一氏
モスクワ ビジネスサポーター 岩本 茂
今年度から海外ビジネスサポーターとしてロシア、モスクワを中心とした経済関連情報をお届けする予定です。長年三井物産に勤務し、東欧(プラハ)勤務をはじめロシア(モスクワ)に数度勤務いたしました。主として機械分野の商売を経験してきたこともあり、4年前独立し、モスクワに事務所を設立し今日に至っております。ビジネスの現場に近いところに身を置いておりますので、ロシア、ウクライナ、白ロシアの客先との直接対話を通じ、日本独自の設備技術、部品等の情報を提供しつつ、商売をやらせていただいております。ロシアはその昔ソ連の時代には国策で、品質に関係なく、何でも自分で作っていましたが、近年は石油の高騰による外貨余りの状況で海外からの製品もあふれています。また不動産も高騰しバブルの様相を呈しているのが現状です。 従って、ロシアの物づくりの現場は新規技術ー設備導入が進んでおらす、古い設備がそのまま数多く放置されている状況でもあります。 しかし最近はようやく国内の製造現場も息を吹き返しつつあり、物づくりのプロとしての日本に対する関心も高まってきたようです。 現場を中心にした情報をお届けできればと楽しみにしております。
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